なぜ、ベルギーでマッサージ屋さんをやっていたの?

ウェブサイトで私のプロフィールを見てくださったお客様からよく質問されます。
その都度、かいつまんで成り行きをお話しするのですが、記憶が薄れる前に、自分語りをしてしまおうと思いはじめました。個人的なことなので、全ての方に興味があるものでも、ためになる話でもありませんが、よろしければお読みください。

寒くて暗いベルギー生活。

 時は、20年近く前に遡ります。フランス人の夫と国際結婚、娘を出産して、ベルギー(首都ブリュッセル)に住んでおりました。

ブリュッセルのグランプラス


ベルギーと言えば、チョコレートとか、ワッフルとか、世界遺産のピカピカのグランプラスなど、華やかなイメージをお持ちの方も多いでしょうが、実際暮らしてみると日照時間が短く、雨の多い寒くて暗い国。(写真のような青空は夏の一番いい時期に見られます。)

 住み始めて数年の後、体調不良の悪いスパイラルに悩んでおりました。娘を出産するまでは自由奔放に暮らしていたという生活リズムのギャップもあったのかと思いますが、長い冬の間は気管支炎を繰り返し、長引く咳でぎっくり腰になったり、肩こりで腕が上がらなくなったり・・・在宅での仕事も、家事も育児もままならない状況でした。

ベルギーで指圧を学ぶ?

 冷えで体中が凝っていても現地のマッサージは、そーっと撫でる系のものばかり。「日本のマッサージ屋さんに行きたい」と探していたところ、たまたまShiatsuの講習会の情報をインターネットで発見しました。もちろん、指圧を受けられるわけではないけれど、実技を受講生同士で練習するでしょうし、健康になる話も聞けるはず、と受講を始めました。20年前は、まだ日本は東洋の遠い国、寿司も天ぷらも一部の日本好きの人にしか食べられていなかった頃です。日本の指圧を習いたい意識高い系で自然志向のベルギー人たちと、ヨーロッパ解釈のちょっと神秘的な「指圧」をフランス語で学ぶのは、それなりにカルチャーショックもあり、興味深くもあり、慣れない育児でノイローゼ気味だった私に気分転換をさせてくれる場所でもありました。
 講座の単位習得に、「50人に施術をしてレポートを書く」という宿題が出たのです。それもそのはず、外科医がどれだけ手術の経験があるかでスキルを高められるように、セラピストとして、施術をした経験こそが自信とスキルにつながります。ただ、どうやってモデルさんを探すか?外国に暮らして数年、50人も友達はいないし、どうしたものかと悩んでおりましたら、ありがたいことに日本人のママ友つながりで、ブリュッセル駐在の奥様たちが協力してくれたのです。
 ブリュッセルは、都市の規模はあまり大きくありませんが、EU機関の所在地として、ヨーロッパ各国はもとより、世界中から駐在員、移民、私のように流れて来た外国人が暮らしている国際都市。日本企業の駐在員の方も多く、全日制の日本人学校もあるほどです。日本で普通に暮らしていたらあまり出会うことのない人同士でも、ブリュッセルに住む日本人というだけで、不思議な連帯感が生まれ何かと助け合ったりするものなのです。インターネットはありましたが、当時は、今のようにSNSも普及していませんでしたから、まだまだ人との直接的な繋がりが密だったような気がします。

 そんな日本人コミュニティーのおかげもあり、私のレポートの課題は、ベルギー人のクラスメイトよりも随分早く、50人達成!できたわけです。
 そういうあれこれ近況の話を、髪を切ってもらっていた日本人の美容師さんに話していたところ、その美容室の地下の空きスペースを利用してマッサージ屋さんをやってみては?と声をかけてくれました。それが、全ての始まりでした。

 新しい仕事を始める、それはとても魅力的なチャレンジです。ライセンスとかもなくて、仕事としてお客様に施術をしていいものか?本当にお客様が来て、対価を払ってくれるのか?開業するにどんな届がどこに必要なのか?まだまだ体調不十分な自分に、体力仕事はできるのか?
課題は目の前に山と積まれていましたが、新しいことへのわくわく感が暗くて寒くて長い冬の「冬季鬱」気味であった私に、希望と元気を与えてくれていました。

 着替えの際に気になった胸の小さなしこり、そう、乳がんに罹患していたのです。それまでの体調不良は、免疫力低下のせいだったのか、諸々のストレスががんを引き起こしたのか、原因を追究しても仕方ないことですが、初めての深刻な病気に大きなショックを受けました。当時、娘もまだ4歳で、もし、このまま自分が死んでしまったら、と考えるだけでも不安と恐怖でいたたまれませんでした。

不幸中の幸いで、検査の結果ステージ1。手術、放射線治療と5年間のホルモン剤投与だけで、その後転移もなく、私は今もこうして元気に生きています。

 たまたま、辛く長い治療を受けずに済んだのですが、それでも治療中は生活が一変しますし、周りの人達に助けを求めなければいけないことばかりでした。できればしなくても良かった経験でしたが、健康でいることの尊さを身をもって実感したのです。

 病気になれば自分も辛いし、周りの人にも心配をかけます。自分を大切にし、日々メンテナンスをして健康な状態を保つためのお手伝いをしたい!「ベルギーのマッサージ屋さん」はそんな思いでスタートしました。

地下、マッサージスペース

美容室外観